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読むことを学ぶ、終に

イギリスで学ぶ大学院生の洋書多読日記/英語学習日記

Mr Penumbra's 24-Hour Bookstore (by Robin Sloan, 2012)

  • Robin Sloan, 2012, Mr Penumbra's 24-Hour Bookstore, Farrar, Straus and Giroux(=2014, 島村浩子訳『ペナンブラ氏の24時間書店』東京創元社)

感想

失業中のウェブデザイナーClayが働き始めた本屋には秘密があった。天井が見えないほど高く伸びた美しい本屋は、ファンタジーの舞台にふさわしい。Mr Penumbra's 24-Hour Bookstore、それは十六世紀に結成された秘密結社Unbroken Spineのリクルート拠点だった。Aldus Manutius、書物デザインへの貢献によって書物史に名を刻むかれが残した本の暗号を解読すること、それが秘密結社Unbroken Spineの目的だった。すべての謎が解かれたとき、人は永遠の命をえることができる。

閑散としたこの本屋には暗号で書かれた秘密の本を求めて常連客たちがやってくる。日夜暗号を解き続ける常連客を尻目に、Clayは本屋に隠された秘密を一瞬でといてしまう。Unbroken Spineの首領Corvinaは本が作られた当時に存在しなかったものを使わずに暗号を解くことを認めようとしない。地下に隠された図書室の中で、ひとびとは数世紀前と同じようにAldus Manutiusの残した暗号と向かい合う。だが、Clayの成功を見たMr. PenumbraはUnbroken Spineの本部へと向かう。

コンピューターの前に、解けない暗号なんて存在するのだろうか。たとえそれが、数世紀破られていない暗号だとしても。Googleの誇る圧倒的なテクノロジーに全面支援を約束されたMr. Penumbraは守旧派Corvinaに反旗を翻す。彼は成功を確信している。

この物語が描くのは新しいテクノロジーと人類との間の戦いではない。ましてやテクノロジーに汚染されていない人類の英知の勝利でもない。本が情報を記録するメディアであるならば、それはパンチカードはフロッピーディスクと何も変わらない。そして、大量印刷のもと無数の同一内容の本を作り出し、うつくしい書物のデザインを可能にした活字もまた当時最新のテクノロジーだったのだ。古代について知ることが考古学の役割ならば、メディアについての考古学もまた可能だろう。そのように考えるとき1987年以前につくられたコンピューターと紙でつづられた本との差異ははもはや程度の問題でしかない。印刷技術も、それによって作り出される美しい書籍もかつての最新テクノロジーだったのだ。だから、これはメディアとテクノロジーの物語なのだ。すべては印刷という新しいテクノロジー、紙の本という新しい記憶メディアの登場から始まる。

The Computer musters a command-line prompt. This is okay; I can figure this out. When you work on websites, you interact with far-off servers in ways that have not really changed much since 1987, so I think back to NewBagel and tap in a few exploratory instructions.

“Oliver,” I say absently, “have you done any digital archaeology?”

“No”, he says, doubled over a set of drawers, “I don’t really mess with anything newer than the twelfth century.”

コンピューターがコマンドラインプロンプを映し出す。まあ大丈夫、なんとかなる。ウェブサイトをつくるとき、はるか彼方のサーバーとやりとりしなくちゃいけないんだけど、そのやり方なんていうのは1987年からほとんど変わっちゃいない。だから、NewBagelのウェブサイトを作ったときのことを思い出し、様子を少し探るためのコマンドを打ち込む。

「オリバー、デジタル考古学ってやったことあるかい?」ぼんやりとぼくは尋ねる。

「いんや、十二世紀より新しいものとはあんまりかかわらないようにしてるからな」かれは引っこ抜いた引き出しを積み上げなら言った。[拙訳]

記憶装置において、なにが、どのようにして記録されるべきなのか。美しい書籍が記録するものと、Goolgeが画像におさめ、そこに書かれたすべての文字を読み取ることで作りだした本の代替物の違いとは何なのだろうか。映画用特殊技術の作成者であるMatはあらゆる角度から写真をとることで、世界をミニチュアの中に再現しようとする。Clayの小学校からの友人Neelは人間の身体運動をトレースすることでCGによって再現しようとする。再現されたものは、オリジナルにあったなにものかを失ってしまうというノスタルジーは、しかし印刷技術にもあてはまるだろう。活字は手書きの文字が持っているやさしい表情を奪ってしまうかもしれない。だが、そうしたノスタルジーが無視するのはそこにおいて何が失われたのかということのそれぞれの具体性である。

"We're going to document this place," Mat says. He sets his hands on his hips and peers appreciatively around. "It must be recorded."

"So, what, like- a photo shoot?" Mat shakes his head. "No, that would be selective recording. I hate selective recording. We're going to take a picture of every surface, from every angle, under bright, even light." He pauses.

"So we can re-create it,"

(...)

"We can make it interactive," Neel says. "First-person view, totally photorealistic and explorable." You could choose the time of day. We can make the shelves cast shadows."

" No," Mat groans from the ladder. "Those 3-D models such. I want to make a miniature store with miniature books." (pp 212-213)

「いまから、この場所の記録写真をとる」。マットは腰に手を当てて、室内の美しさをうっとりとながめた。

「この場所は絶対記録されるべきなんだ」

「それって、つまり、撮影会みたいなことかい?」

マットは首を振る。「ちがうよ、それだと記録が恣意的になっちゃうだろ。おれは恣意的な記録なんて大嫌いなんだ。明るくて、均質な照明をつかって、この部屋のあらゆる側面を、あらゆる角度から写真で撮るんだ」そういって、かれは息を吸う。

「そうすれば、この場所を再現することができる」

(...)

「この記録はインタラクティブにできるぜ」ニールは続ける。「一人称視点、写真みたいな完全なリアリズム、そして探索可能性。時間を選べば、それあわせて本棚の影がかわるんだ」

「ノー」はしごの上からマットはうめく。「3Dモデルなんてのはくそだ。おれがつくりたいのはミニチュアの本に満たされたミニチュアの本屋なんだ」[拙訳]

レビュー

  • おもしろさ: ☆☆☆★★ (3/5)
  • 英語の読むやすさ: ☆☆☆★★ (3/5)